ルールは破るためにある!?

プロデューサーの彦田です。
先日のTVCM案件では、ちょっと面白いレコーディング方法に挑戦しました。

ディキシーランドの小さなパブで、ライブをするとあるバンド。
ステージも盛り上がってきた中盤、演奏する一曲は彼らの十八番。
客席との距離はとても近く、みんな曲に合わせて自由に手拍子してくれ、
コールアンドレスポンスも飛び出します。
そんな愉快なワンシーンが目に浮かぶような一曲を、どうしても作りたかったのは、
そんな楽曲が、今回のCM映像のトーンやその素敵な質感、
また、CMそのものが目指すコンセプトに、とってもマッチしていると感じたためです。

誰でもすぐに踊って楽しむことができる「ライブ」には、音楽本来のあるべき姿が詰まっていて、
今回は、そんなラフでカジュアルかつ生き生きした瞬間を、
いかにしてレコーディングで閉じ込めるか、ということが課題でした。
演奏家を一堂にあつめて一発録音?
そのためには、録音に最適なシステムの準備と、そのセッティングを組める最適な空間が必要です。
リアルにライブハウスで録音する場合、ハコによって音の響きが異なるため、
録り音を検証するために、何度もリハーサルをしなければならず、とても現実的ではありません。
かといって、レコーディングスタジオで、普段通りの録音機材や録音方法で行えば、
あまりにもキラキラでゴージャスなサウンドになりすぎてしまい、
狙いとしている親しみやすい風合いが出せません。

そこでトライしたのが、今回の録音方法でした。
ブースに3名ずつ、各楽器のプレイヤーさんに入っていただき、リズム隊とブラス隊に分けての同時録音で、
演奏にリアルなセッション感を出します。
マイクは各楽器、その手元にSHURE SM57を一本ずつスタンバイ。
キャスティングは、プレイヤーさんそれぞれにご協力いただき、
お互いに顔見知りの方々を集めていただくことで、呼吸の合った「バンド感」をぐっと高めます。

そしてボーカルの録音ですが、そのセッティングはこちら。
通常、ボーカルの録音では、声のふくよかな響き成分を余すことなくキャッチできるよう、
感度の高いコンデンサーマイクを使用することが一般的ですが、
「ライブハウスでの生演奏感」という音作りにおいては、場違いに明瞭で生々しい質感で録れすぎてしまい、楽曲の中で浮いてしまいます。

写真のSHURE SM58は、街中のスタジオやライブハウスでも必ず常備されている、
最も有名でスタンダードなダイナミックマイクのひとつですが、
レコーディングスタジオでのボーカル収録では、歌い手の繊細な息づかいを収めたい場合が多いので、
まず滅多に使用しません。
このセッティングは、レコーディング現場では珍光景でもあり、これを目撃した時、
あまりの大胆さに、弊社エンジニアの攻めっぷりを感じて、思わず激写してしまいました。
目指す音を作り上げるためなら、録音の方法や使用する機材に関しても、型にはまる必要なんてありません。
目的のためには手段を選ばない、そう、ルールは破るためにあると思い知るのでした。

アレンジャーさん、演奏家のみなさん、弊社エンジニア、
みんなの素晴らしい技術とアイディア、そして工夫や探究心がひとつになって、
絶妙にゴキゲンな、最高の一曲が完成しました!
この楽曲は、7月から某TVCM曲としてオンエアされます。

そんなレコーディングを終えて帰宅すると、我がねこがカーテンレールの上に。
そう、ルールは破るためにあるんです。
ねこがカーテンレールの上に乗ってはいけないなんて誰が決めたのでしょうか。
でも、そんなドヤ顔されたって、だめなものはだめですからね!

いよいよ6月も残り3日。下半期に突入です!

彦田恵子